がん治療に伴う患者さんの待ち時間を減らし、スムーズな治療を目指す「ゼロプロジェクト」。この実証実験を共同で取り組むのは、聖マリアンナ医科大学病院・腫瘍内科の砂川優先生とタケダの伊豆丸裕美さんです。お二人に、本取り組みを推進した背景や想い、ビジョンについて伺いました。

待ち時間をゼロに。
患者さんにとって負担の
少ない治療提供体制を目指す

「ゼロプロジェクト」に取り組んだきっかけを教えてください。

【伊豆丸】がん治療において患者さんが抱える負担には、大きく「精神的負担1)」「経済的負担2)」「時間的負担3)」があるといわれています。タケダでは、がん治療における患者さんの負担軽減に向けたさまざまな取り組みを進めている中で、特に着目したのが「時間的負担」です。アンケートによる調査を実施した結果、その中でも通院に伴う「時間的負担」を感じている患者さんが多くいることが明らかになりました。

私自身も病院を訪問した際、待合室などに多くの患者さんがいる光景を目にし、「待ち時間が長いのはやむを得ないこと」という固定概念がありましたが、さまざまな不安や負担を抱えながらがん治療に臨まれている患者さんの現状を、もっと変えていかなければと思い、がん治療における待ち時間を少なくする「ゼロプロジェクト」を立ち上げたのです。

  • 1)治療への不安、将来への不安、治療と仕事との両立への不安 等
  • 2)長期間にわたる高額治療費、通院費の負担 等
  • 3)病院への通院時間、院内での検査・治療時間とそれらに伴う待ち時間
インタビューに答えるタケダ伊豆丸 インタビューに答えるタケダ伊豆丸

【砂川】がんの種類やステージ(病期)などは患者さんによって異なり、長期間にわたる治療が必要になる場合があります。自宅から病院に通いながら治療を受けることはできますが、検査と治療の時間に加え、その間の待ち時間もあって患者さんは病院で半日から1日程度過ごすこともあります。

【伊豆丸】つまり、通院にかかる時間だけでなく、検査や治療に至るまでの待ち時間にまで時間が割かれるということであり、日常生活や仕事とがん治療の両立の問題に関わってきますね。そこで、砂川先生にご協力いただき、「ゼロプロジェクト」に取り組んだ経緯があります。

【砂川】私の患者さんで仕事をされている方の中には、有給休暇を取得して通院する方もいらっしゃいます。日々患者さんに接していると、通院に伴う時間的負担というのは本当に切実な問題だと捉えています。

実際、患者さんから待ち時間の改善に対するご意見・ご要望を多数いただき改善を図ってきましたが、解消しきれない課題も残っておりました。院内で解決策を模索していたところ、タケダさんから本取り組みの提案をいただき、ご一緒することになりました。

がん治療における待ち時間の
長さの負担を解消する、
私たちの挑戦と役割

「ゼロプロジェクト」の具体的な内容と、それぞれの役割について教えてください。

【伊豆丸】通常、抗がん剤治療を行う際、治療を受ける病院で治療を行っても問題がない体調かを確認するために採血を行いますが、本取り組みでは、患者さんが治療を受ける前日にご自宅の最寄りの聖マリアンナ医科大学病院連携先クリニックで採血を行ってもらいます。聖マリアンナ医科大学病院が採血結果を事前に入手することができるため、治療当日の待ち時間の短縮が図られます。

【砂川】院内で採血を行う際、一般的に検査結果が出るまで1時間~1時間半程度かかります。この時間を短縮できることで、患者さんはご自身の時間をほかのことに有効に使うことが可能になります

本取り組み実現に向けては、当院腫瘍センターをはじめ関連する当院内の部署へタケダさんに取り組み内容の説明をしてもらったほか、連携先クリニックである第二川崎幸クリニックでの必要な調整もサポートしてもらいました。

これまでは血液検査から診察・投薬まで同じ日で実施、大学病院への通院時間に加えて、血液検査や診察・投薬に至るまでに患者さんの待ち時間が発生していた。ゼロプロジェクトでは、治療日前に自宅付近の最寄りのクリニックで事前採血を行い、血液検査データを大学病院に共有することで、当日は診察から開始することができる。 これまでは血液検査から診察・投薬まで同じ日で実施、大学病院への通院時間に加えて、血液検査や診察・投薬に至るまでに患者さんの待ち時間が発生していた。ゼロプロジェクトでは、治療日前に自宅付近の最寄りのクリニックで事前採血を行い、血液検査データを大学病院に共有することで、当日は診察から開始することができる。

【伊豆丸】本取り組みは、聖マリアンナ医科大学病院とともに、患者さんと連携先クリニックのご協力があってこそ成り立ちましたが、砂川先生が普段から双方と良好な関係を築かれていらっしゃったことがご協力いただけた要因だったと思います。

【砂川】新しい取り組みを行うとき、強い想いなくしては成功に近づけないと考えています。一方で、気持ちだけ先走ってもうまく回らないこともありますよね。本取り組みでは、タケダさんの的確なサポートによって、準備から実際の取り組みまで滞りなく進められたことが印象的でした。

患者さんの待ち時間の解消を院内だけで解決することの難しさを痛感していました。そんな中、タケダさんが同じ想いの下、共感して本取り組みを進めてくれたことが大きな推進力となったと感じています

最寄りの連携先クリニックで事前採血することで待ち時間短縮以外にも、
患者さんにとってどのような影響が期待できると思いますか?

【砂川】かかりつけ医の紹介を通じて当院に通院している患者さんに対しては、かかりつけ医へ診療情報を連携することができ、患者さんにとって身近な主治医に治療の状況や自分の体の状態を把握してもらえます。例えば体調のちょっとした不安や気になることがあった場合、まずはかかりつけ医に相談できるので、安心感を得られるのではないかと思います。

【伊豆丸】本取り組みが進展し、抗がん剤治療のための通院に伴う待ち時間が短縮すれば、患者さんだけではなく、ご家族など付き添いの方の負担軽減にも寄与できるのではないかと考えています。

待ち時間ゼロで変わる、
患者さんと医療従事者の
この先

患者さん
本取り組みに参加された
患者さん

今までは当日の血液検査だったため、そのための待ち時間も長くストレスを感じていました。今回の取り組みでは、自宅近くのクリニックで事前検査ができたため、待ち時間が大幅に軽減され、負担がとても軽くなりました。患者にとっては貴重な時間を有効に使え、メリットのある取り組みなので、ぜひ広がっていって欲しいです。

関川 浩司先生
第二川崎幸クリニック 院長
関川 浩司先生

患者さんがご自宅から近い当クリニックで事前に血液検査を受けることで、待ち時間を短縮できただけでなく、通い慣れていることもあり精神的な負担の軽減にも寄与できたのではないかと思います。患者さんの立場に立った医療提供体制の整備が進展し、がん治療に対するハードルが少しでも下がればと考えています。

その人らしい生活を守る、
がん治療の未来

本取り組みの推進を通して目指す、がん治療の
未来を教えてください。

【砂川】実証実験であった本取り組みで実施した抗がん剤治療に伴う事前採血のフローを、一般化することを目指しています。そのためには、医療機関の紹介や連携、患者さんのカルテ情報をスムーズに共有できる医療DXの推進に努めていきたいです。

また近年、がん治療がめざましい発展を遂げて高度化していることに伴い、医療機関の集約化(がん診療連携拠点病院の整備)が進められています。それによって患者さんが高度ながん治療を受けるための移動距離が増えることになり、特に地方ではその傾向が顕著です。どこに住んでいても、受けられる医療の質を保ちながら、患者さんの待ち時間による負担を軽減するには、遠隔診療を推進していくことも重要だと考えています。

インタビューに答える聖マリアンナ医科大学病院砂川腫瘍内科医 インタビューに答える聖マリアンナ医科大学病院砂川腫瘍内科医

【伊豆丸】本取り組みがより多くの医療機関で実施されていき、がん治療を受けながらもその人らしい生活ができるようサポートを続けていきたいですね。治療中心の生活ではなく、日常生活を大事にしながらがん治療とも向き合えるような社会にしていけたらいいなとも思います。

【砂川】医療従事者だけでなく、医療に関わるさまざまな方たちと対話を重ねて協力していくことで、より患者さんに寄り添った医療提供体制を築いていくことができると思っています。

【伊豆丸】がん治療に限らず、医療課題は多くの複雑な要件が絡み合っており、1社だけですべての解決は困難です。そのため、実際の医療現場の声を砂川先生から伺いながら共に進めることができた「ゼロプロジェクト」は、大きな一歩だと思います。

製薬会社は医薬品をきちんとお届けすることが重要な役割の一つですが、それだけでなく、患者さんが治療の中で抱えるさまざまな課題と向き合い、これまでのがん治療で考えられていた当たり前を変えていくために、これからも多様なステークホルダーと協力しながら尽くしていきたいです。

談笑する聖マリアンナ医科大学病院砂川腫瘍内科医とタケダ伊豆丸 談笑する聖マリアンナ医科大学病院砂川腫瘍内科医とタケダ伊豆丸

PROFILE

武田薬品工業 日本オンコロジー事業部ストラテジックポートフォリオプランニング部 伊豆丸 裕美 武田薬品工業 日本オンコロジー事業部ストラテジックポートフォリオプランニング部 伊豆丸 裕美

武田薬品工業
日本オンコロジー事業部
ストラテジックポート
フォリオプランニング部

伊豆丸 裕美

既存品、新薬候補のプライシングマネージメントや
Takeda Japan Oncology Policy(タケダが着目するがん医療課題)に
基づく新規事業を担当。

聖マリアンナ医科大学病院  腫瘍内科部長、腫瘍センター長、ゲノム医療推進センターがんゲノム診療部部長 砂川 優 聖マリアンナ医科大学病院  腫瘍内科部長、腫瘍センター長、ゲノム医療推進センターがんゲノム診療部部長 砂川 優

聖マリアンナ
医科大学病院
腫瘍内科部長、
腫瘍センター長、
ゲノム医療推進センター
がんゲノム診療部部長

砂川 優

腫瘍内科医。これまで臓器横断的に固形がんの薬物治療を学び、現在、各患者さんに最も適した薬剤を使用するための研究やトランスレーショナルリサーチを推進。

※所属は撮影当時のものです