• パーパス経営とガバナンス Vol.03

攻めのガバナンスモデル
ってナンダ?

パーパス経営とガバナンスVol.03

タケダに見る、
先進的ガバナンスモデル構築
の進め方

DHBR online版(2022年3月31日公開)に掲載されたタイアップ記事(PR)を転載

2021年6月、東京証券取引所(東証)は2度目の改訂となるコーポレートガバナンス・コードを公表、施行した。これは2022年4月の東証の市場区分再編とも密接に関係しており、より高いガバナンス水準を求められる最上位のプライム市場上場会社では、ガバナンス改革を急ぐ動きが見られる。

グローバルの投資家との対話を見据え、上場会社が実現すべきガバナンス水準とはどのようなものなのか。そして、どのようにしてその水準を達成すればいいのか。本稿では、研究開発型のバイオ医薬品のリーディングカンパニーとして、グローバル水準のガバナンスモデルをすでに構築している武田薬品工業をモデルケースとしながら考察する。

CGコード改訂の3つのポイントは、
取締役会機能、多様性、サステナビリティ

我が国で2015年に初めて導入されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)は、2018年に次いで今回が2度目の改訂となる。今回の改訂においては、世界的に注目が高まっているサステナビリティ(ESG<環境、社会、ガバナンス>要素を含む中長期的な持続可能性)をめぐる課題への対応も主要な論点となり、CGコードの原則に盛り込まれた。

また、東京証券取引所は、市場第1部・2部、マザーズ、JASDAQの4つに分かれていた市場区分を2022年4月4日から、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つに再編する。CGコード改訂は、この市場再編とも密接に関係している。

東証は、上場会社に持続的な企業価値向上の動機付けを行うことを市場再編の目的としており、グローバルの機関投資家の投資対象となりうる最上位のプライム市場上場会社は、より高いガバナンス水準を求められる。

今回のCGコード改訂のポイントは、大きく3つ挙げられる。それは、(1)取締役会の機能発揮、(2)企業の中核人材における多様性の確保、(3)サステナビリティをめぐる課題への取り組み、である。

具体的には、プライム市場上場会社を対象とする原則として、(1)について、社外取締役を全取締役の3分の1以上選任すること、指名委員会・報酬委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とし、独立性の考え方・権限・役割などを開示することが新たに加えられた。

改訂CGコードは積極的な情報開示も求めており、(2)については全上場会社が、中核人材における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の管理職への登用など)についての考え方と測定可能な目標設定および開示を求められた。そして、(3)についてプライム市場上場会社は、気候変動リスクおよび収益機会の分析を行い、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに基づく開示を進めるべきという新原則に対応することが必要になった。

こうした改訂ポイントに対応するには、ガバナンス上の機構設計の変更などに留まらず、企業経営そのものの改革を迫られる。それはコーポレートガバナンスがそもそも、株主をはじめ顧客、従業員、地域社会など幅広いステークホルダーの立場を踏まえたうえで、透明・公正で迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味していることからも明らかであろう。

では、高水準のガバナンス体制をいかに構築、運用していけばいいのか。武田薬品工業(タケダ)をモデルケースとして、考察していきたい。

企業としての価値観とガバナンスは
パーパスの実現に向けた経営の両輪

タケダは、クリストフ・ウェバー氏が2014年6月に代表取締役社長に就任、2015年4月からCEOを兼務して以降、真にグローバルなバイオ医薬品のリーディングカンパニーを目指して、先駆的なガバナンス改革と経営改革に取り組んできた。

その歩みを簡単に紹介すると、2016年に監査等委員会設置会社に移行、独立した立場から経営陣と取締役に対する実効性の高い監督を行い、またステークホルダーの意見を取締役会の議論に適切に反映することなどを目的に独立社外取締役の人数を増やし、多様性を高めてきた。

2017年度は経営の執行と監督をより明確に分離するために、独立社外取締役の坂根正弘氏(元小松製作所社長)が取締役会議長に就任。2018年12月には、Shire(シャイアー)社の買収を契機としてニューヨーク証券取引所への上場を果たし、独立社外取締役の人数を増員してガバナンス体制をさらに強化した。

そして、2019年度からは指名委員会と報酬委員会を、2021年度からは監査等委員会を、各委員長を含め独立社外取締役のみで構成することとし、各委員会の独立性を実質的に高めるとともに、統治機能のさらなる充実を図ってきた。

現在、タケダの取締役16人のうち4分の3を占める12人は独立社外取締役であり、その水準は改訂CGコードがプライム市場上場会社に求める3分の1を大きく上回っている。ちなみに、東証が2021年8月に公表した調査資料(「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」)によると、3分の1以上の独立社外取締役を選任しているのは1部上場会社の72.8%に達するが、独立社外取締役が過半数を占めるのはわずか7.7%にすぎない(2021年7月時点)。

自社の戦略に照らし合わせて必要な知識、経験、能力を持った社外取締役を選任するのは容易なことではなく、多くの企業はその点に難しさを感じている。改訂CGコードでは、取締役会全体として備えるべきスキルを特定し、各取締役が持つスキルを一覧表としてまとめたスキルマトリックスを開示すべきとしており、タケダも2021年12月にスキルマトリックスを公表した。

それを見ると、グローバルなバイオ医薬品のリーディングカンパニーとして、「グローバル経営&戦略」「コーポレートガバナンス、サステナビリティ」「マネジメント、リーダーシップ、人材育成」「サイエンス&医薬」「ヘルスケア業界」に加え、「データ&デジタル」なども備えるべきスキルと特定し、そうした知識や経験を持つ人材を取締役に選任していることがわかる。

また、多様な取締役が取締役会や監査等委員会、指名委員会、報酬委員会に参画し、客観的かつ建設的な議論をどのように進めているのかを示すため、タケダはこれらの会議体の運営ルール(規程)を2021年11月に公表した。規制で求められる以上の情報開示を積極的に進め、コーポレートガバナンスに透明性を追求する点もタケダの特徴であろう。

タケダが他社に先駆けて高度なガバナンスモデルを構築してきた理由は、CGコードへの対応という受動的なものではない。同社のウェバー社長兼CEOは、「私はタケダのバリュー(価値観)とベスト・イン・クラスのガバナンスを大切にしており、これらの2つを合わせることで、当社は、今日のような『誠実』を価値観の中心に置くグローバルな研究開発型のバイオ医薬品のリーディングカンパニーになることができました」と語っている。

すなわち、タケダのバリュー(価値観)をもとに事業を発展させるための基盤として、高度なガバナンスモデル構築に能動的に取り組んできたのである。その結果、CGコードの改訂内容にも多くの点でスムーズに対応することができた。

タケダのバリューは、「誠実:公正・正直・不屈」という1781年の創業当初から240年もの長きにわたり受け継がれているタケダイズムと、倫理的行動を支える4段階の要素(Patient、Trust、Reputation、Business)から成っている。

このバリュー(価値観)は、「世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献する」という同社のパーパス(存在意義)の実現に向けた羅針盤ともなっている。すなわち、取締役会や経営の執行を委任されているタケダ・エグゼクティブ・チーム(TET)、さらにはタケダの世界中の事業拠点や工場、研究所などでこれを道標とし、患者さんに寄り添い(Patient)、社会との信頼関係を構築し(Trust)、社会的評価を向上させ(Reputation)、事業を発展させる(Business)ことを日々の行動指針としている。

このように、企業としての価値観とガバナンスはパーパス(存在意義)の実現に向けた経営の両輪であり、組織文化として浸透した価値観や実現したい未来像があってこそ、あるべきガバナンスモデルを描き、能動的に構築していくことができるといえるだろう。

裏を返せば、目の前のCGコード改訂への対応だけに目を奪われていると、自社の経営戦略の実行を支える、高度で実効性のあるガバナンスモデルを構築することは難しいともいえる。そこで次の章では、コーポレートガバナンスの戦略的意義について、PwCコンサルティング合同会社の愛場悠介パートナーに聞く。

あるべき姿に向け、みずから変化を起こす
「攻め」のガバナンスも重要だ

米国のPwCでM&A(合併・買収)支援チームに所属するなど、日本、米国、アジア地域におけるクロスボーダー統合案件を中心に豊富な経験と実績を持ち、国内外のコーポレートガバナンスにも詳しいPwCコンサルティングの愛場悠介パートナーに、コーポレートガバナンスの戦略的意義と日本企業の課題について聞いた。

――タケダのガバナンスモデルをどのように評価するか。

【愛場】全体観として、まさにグローバル企業のガバナンスモデルという印象だ。2019年にShire社を買収したことも影響していると思うが、ガバナンスの点でもグローバルなメガファーマ(巨大製薬企業)に伍していこうという意欲が見て取れる。

16人の取締役のうち12人は独立社外取締役が占めており、独立性や意思決定の客観性・透明性が担保されているだけでなく、坂根正弘氏、志賀俊之氏(元日産自動車最高執行責任者)、藤森義明氏(元日本GE CEO)など、さまざま業界でグローバル企業をマネジメントしてきた多様な経験と知識を持つ独立社外取締役を選任している。また、デジタルとデータのスキルを有するメンバーも取締役会に入っており、将来のビジネスモデル改革も視野に入れていることがうかがえる。

ガバナンスの実効性を高めるために指名委員会、報酬委員会を積極的に活用しており、両委員会と監査等委員会の構成員をすべて独立社外取締役としていることは、形式的な機関設計ではなく、実質を重んじていることの表れではないか。

経営執行メンバーであるTETも18人中13人が海外人材、6人が女性であり、グローバル企業にふさわしい多様性に富んでいる(上記図表参照)。

こうした先進的なガバナンスモデルと表裏一体を成しているのが、タケダのパーパスや価値観であり、パーパスを単なるお題目にしないために試行錯誤しながらガバナンスを進化させてきたのだと思う。

――ガバナンスの戦略的意義と日本企業の課題について伺いたい。

【愛場】ガバナンスといえば、不正防止や法令遵守など一般的に「守り」のイメージが強い。企業価値を毀損しないための「守り」に加えて、企業価値を高めるための「攻め」のガバナンス、つまり適切にリスクを取る動機付けも同様に重要だ。

コロナ禍で経営環境が大きく変化する中、既存の事業やビジネスモデルを踏襲するだけでなく、みずから変化を起こすアニマルスピリットを日本企業は取り戻す必要がある。感染症の大流行に限らず、ITバブル崩壊やリーマンショックなど、大きな変化は10年単位で起きている。経営者は、10年先に自社はどうありたいかという長期ビジョンを描き、あるべき姿を自分たちの手でつくり出していくことが求められる。

そうした攻めのガバナンスを確立するためにも、経営の監督・執行それぞれでメンバーの多様性を確保しなければならない。単一の事業経験しかない、あるいは同質的なバックグラウンドを持つメンバーばかりでは、多様でイノベーティブなアイデアや意見は出てこない。

改訂CGコードにしても、あるいはESGやサステナビリティ課題への対応にしても、ルールができたから守るという姿勢ではなく、自社が描いたあるべき姿に照らして自分事として、本質に踏み込んだガバナンス改革や企業変革を行うこと。トップマネジメントはそこにコミットすべきだと思う。

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