生まれた国や育った場所に関係なく、世界中の誰もが健康で豊かな暮らしを送ることができる社会の実現は、国際社会にとって大きな課題。こうした課題に対してタケダでは、長年取り組む日本国内でのCSR活動やグローバルでのCSR活動の取り組みに加え、2016年からは「グローバルCSRプログラム」を推進している。このプログラムでは、2022年度までに24の長期プログラムを行う17の国際的な非営利団体に、総額197億円の支援を行ってきた。今回は、その推進役として活躍している原田アリスさんに、活動への想いを聞いた。
5万人のタケダ全従業員が参加し、
パートナーと共創するCSR
<タケダのグローバルCSRプログラムとは>
保健システムの課題解決に取り組むタケダのグローバルCSR活動の中核として、世界中で活躍する非営利団体と課題解決に向けて協働する取り組みです。このプログラムの大きな特徴は、約80の国と地域で活動する全従業員を対象とした投票によって、支援するプログラムを決定するという点。2021年度からは、タケダの従業員からなる委員会「CSR Application Review Committee(CARC)」を立ち上げ、今年は約40名のメンバーが全従業員投票の対象となる最終候補のプログラムを選出しました。
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原田さんはこれまでNGOで活動されてきた経験をお持ちと伺っています。タケダのグローバルCSRプログラムの強みはどのように感じますか?
このプログラムで重視しているのは「パートナーシップ」です。ただ単に寄付金を拠出するのではなく、各地で課題に向き合いながら活動する世界各国のプログラムに寄り添い、踏み込んだサポートをしているという関係性が大きな強みだと思います。タケダは各NGOと、対等かつ相互に有益なパートナーシップを結んでいます。プログラムを通じて、お互いが学び合えるような強い信頼関係が構築された、オープンで透明性のある活動だと思います。
私自身も、日本のNGOでプロジェクト・リサーチャーとして、プロジェクトのモニタリングと評価(M&E)や、NGOのオンラインプレゼンスを高める業務に従事してきた経験があり、プロジェクトの企画や、各種手続き、現地のニーズの理解、進捗管理など、前職の経験で培ってきた多くのことがタケダのグローバルCSRの発展に役立っています。
タケダが支援しているプログラムは全世界79カ国に渡って活動していますが、各国のプログラムの状況は刻々と変化します。タケダは世界中に拠点を持つ企業ですが、そうした変化を素早く把握・理解して、柔軟に対応できるところも大きな強みだと思います。
「世界中の全従業員で決める」というグローバルCSRプログラムの仕組みには、どのような意義があり、またタケダにどのような影響をもたらしているのでしょうか?
応募されたプログラムの活動や様々な課題を全従業員に知ってもらうということに、まずは大きな意味があります。私たちは最低でも4年、最長10年という長期的な視点でプログラムを支援していきますが、従業員がこれらの活動を現地視察や従業員参加型のイベントを通じて応援しています。これは、プログラムの社会的な認知度を高めることにも貢献すると思います。
そして、こうした活動は、従業員がグローバルヘルス(世界中にある公衆衛生)の課題を知る大きなきっかけになります。実際にこれまでのイベントにおいても、「このような課題があることを知らなかった」「投票だけでなく、もっと積極的にプログラムに関わりたい」という声は多く、従業員の良い「気づき」になっています。
応募された全ての
プログラムを
公平に評価するために
2022年度のプログラム選定のプロセスはどのように進んだのでしょうか?
入念かつ長期に渡る準備やプロセスを踏みながら、数多くのチームを巻き込んで支援プログラムの選定を進めていきました。具体的には、全世界の非営利団体を対象とした公募に寄せられた60以上の素晴らしいプログラムについて、応募内容の一次審査を経て、CARCに各プログラムの内容を十分に理解してもらった上で評価してもらいました。その後、プログラムの運営体制や収支などについてのデューデリジェンス(調査と評価)を、社内の様々な部門と連携して行い、全従業員投票に進む上位10プログラムを決定しました。
応募された数多くのプログラムの中から「選ばなければならない」ということに葛藤などはあったのでしょうか?
選考そのものは客観性と公平性を徹底して進めることを大事にしているので、そこに私を含めて従業員の感情的なバイアスは一切入りません。そうした選考ができるように、評価方法や選考プロセスを準備し、また非営利団体にも客観的な情報提供を依頼しています。また、評価は全てスコア方式をとっており、評価をCARCの全メンバーで行い、グローバルCSRチームで集計をします。
そこで誰か1人の評価がそのプログラム全体の評価を左右するということは絶対にありません。仮に私が高く評価したプログラムであっても、CARCの総意と合致しなければ最終選考にはかけられません。「感情が動いても絶対にそれに左右されない」という、公平性・透明性を担保するプロセスを徹底して評価をすることが、応募されたプログラムに対する誠意ある対応だと考えています。
ただ、CARCのメンバーは、自分自身の評価が応募された各プログラムの今後に大きな影響を与えるということで、プレッシャーは相当あったと思います。彼らのほとんどはグローバルヘルスの専門家ではない(応募された各課題に精通しているわけではない)という自覚と謙虚な姿勢を持っており、中には公平な評価ができているかどうかを悩んでいる従業員もいました。そのような従業員にはグローバルヘルスの知識を持つCARCメンバーからグローバルヘルスを学ぶための機会を設けるなど、メンタリティへのフォローアップを大切にしていました。
プログラムの全貌を
明らかにして、
全世界の
従業員に伝えていく
選考過程の中で、応募された各プログラムにはどのようなフォローを行っていったのでしょうか?
最終選考に向けてプログラムの審査が進んでいく段階で、プログラムごとにヒアリングなどを行い、評価のために必要な情報を明確にしていきました。時には、応募プログラムへの質問項目は30個を超える場合もありました。デューデリジェンスを厳格に行うためにも、とにかくプログラムに関するあらゆることを徹底的に行いました。
一方で、応募されたプログラムに対してCARCによる審査で上がった懸念点などをフィードバックするところもユニークなところだと思います。最終選考に残れなかったとしても、応募された全てのプログラムを応援したいという想いは強く、このフィードバックを少しでも今後の活動に活かしてもらえればと考えています。
投票にあたり、プログラムの内容を世界中の従業員に正しく伝えること。そして積極的に投票してもらうために、どのような工夫をしたのでしょうか?
それぞれのプログラムから受け取った大切な想いを、投票する全ての従業員にきちんと伝えたい。「伝えなければ」という使命感を持って進めました。その反面、忙しく働く従業員がきちんとした理解をベースに投票できるようにすることが必要です。その中で一番重要でかつ難しかったのは、最終選考に残った各プログラムを、見やすく分かりやすく、かつ、きちんと活動の重要ポイントが伝わるように1枚のスライドにまとめることでした。さらに、世界中あらゆる地域の従業員に正確に伝えるために、資料は10ヶ国語で作成しています。
そして実際の投票にあたっては、世界中のコミュニケーションリーダーとも連携しながら、あらゆる方法を駆使して投票の意義や情熱を伝える社内広報活動を徹底的に行いました。加えて2021年度の投票から、データアナリティクスを活用して拠点ごとの投票率などを把握できるようにしたので、投票率の低い拠点については原因などを分析して重点的にフォローアップをするなどの工夫もしました。
グローバルCSR
プログラムが見据える
未来とは
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グローバルヘルスの問題解決に向けて活動する非営利団体にとって、このプログラムはどのような存在でありたいですか?
このようなパートナーシップは、本当に革新的で、お互いに有益なものだと考えています。
タケダにとっては、グローバルヘルスに関する様々な課題、世界中の人々や患者さんが直面している困難、そしてそれらの解決策の可能性について知見を得ることができます。これによって、私たちがどのように、どこに貢献するのがベストなのか、理解を深めることができます。一方で非営利団体に対しては、課題解決に貢献する必要な資金を拠出し、プログラムや課題の認知度向上と支援のための又とない機会を提供することができます。
非営利団体と従業員双方の多様な視点を取り入れることで、グローバルヘルスの課題に長期的に取り組むべく、このプログラムは継続的な成長と共創のための貴重な存在になっていてほしいと強く思っています。
最後に、グローバルCSRプログラムにかける想いや将来の夢について教えてください。
企業のCSR活動は、社会全体にとっても非常に重要なものになっていくと思いますし、投資家や次世代リーダーの関心が高まっていることから、よりダイナミックなものになってきています。だからこそ、タケダのグローバルCSRプログラムを他の企業や団体に知ってもらうことで、それが刺激となり、多くの企業でCSR活動の強化や支援拡大に繋がればいいですね。
タケダのCSR活動によって経済的な利益は生まれませんが、企業理念を体現しているため、従業員エンゲージメントを高めることができると考えています。そしてこの活動が、企業への信頼や社会的な評価の向上、SDGs、その他の多くの面で企業や社会に大きな影響を与える支援であることに気づいてもらうきっかけにしたいです。もちろん、すべてのプログラムや成果を社内外に伝えていくことは簡単ではありませんが、この「5万人の従業員投票」を通じて、多くの方にタケダのプログラムのことを知ってもらいたいと思います。
原田アリス
グローバルコーポレートアフェアーズ グローバルCSR &パートナーシップストラテジー 課長代理。イギリスとカナダでのボランティア経験を経て人事コンサルティングの経験を積む。その後、ジェンダー・人種・セクシュアリティ・社会正義の分野で修士号を取得。日本のNGOでプロジェクト・リサーチャーとして勤務後、タケダに入社し、グローバルCSRプログラムを担当。
※所属は制作当時のものです